骨粗鬆症の現場から考える(毎日新聞長崎県版掲載記事)
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年齢とともにもろくなる骨
勝野さん(司会)
 骨折の予防はできるのでしょうか?


青柳教授
 普段の心構えが大事です。まず、バランスの取れた食生活が挙げられます。カルシウムが骨の構成分ですから不足しないようにする。カルシウムの吸収を助けるビタミンD、骨の形成を助けるビタミンKも不足しないようにしないといけません。
 もう一つ重要なのは運動です。体を動かさないと骨量は減ります。以前の宇宙飛行士は期間後、骨量は急速に減っていたのです。骨には何か力が加わっていることが骨を丈夫にするということの裏返しですね。
 しかし、実際骨粗鬆症になっている方は、高齢者が多く、そうした運動を継続することは難しいです。実現可能なウォーキングを毎日するのでもいいと思います。ウォーキングは有酸素運動ですから、コレステロールや高血圧を引き下げることにもつながります。それは、心筋梗塞、脳卒中の予防、全体の健康の増進に役立つわけです。


桐山
 運動で骨の量を維持するということは大切なことです。背骨にしても、周りの筋肉で骨折しないよう守っているし、脚の付け根も転ばないと折れないわけで筋力を鍛えていることが大事ですね。骨量だけではなく、骨の構造、形も変わる可能性があります。

青柳教授
 骨の予防で、こんな面白い話もあります。寝たきりにつながるいわゆる脚の付け根、大腿骨頸部骨折ですが、日本人は欧米に比べ少ないのですね。理由として考えられるのは、日本人のほうが転倒しにくいということがあります。
 日本独特の畳生活、立ったり座ったりの繰り返し、それを長年続けることで、足腰の筋力、バランス力がついているのではないかということです。それと車の普及が遅れたことですね。今高齢の方は若い頃、車を利用できなかったので、よく歩いたということです。もう一つは、足が短いことです。重心が低いわけですから転びにくい。転んでも脚の付け根が低いわけですから加わる力も少なくてすみます。


勝野さん(司会)
 転倒予防についてうかがえますか?


青柳教授
 大腿骨頸部骨折が一番気をつけなくてはならないことですね。ここを折ると歩けなくなってしまいます。この骨折の9割以上が転倒によるものです。転倒の外力はそんなに大きくないので、子供とか成人は折れないのですが、骨粗鬆症になって骨量が減った高齢者は、転んだだけでも折れてしまうのです。逆にいうと、骨が弱くても、転びさえしなければ折れないですむわけです。ですから、転倒を防ぐことが骨折予防につながっていきます。
 具体的には転倒を起こす原因は何かを知らなければいけません。まず、転倒を起こしやすい病気があります。白内障などの視力障害、運動機能にかかわるリウマチや神経系の疾患、不整脈などの循環器系の疾患、それと桐山先生が言われた運動不足による筋力低下ですね。精神安定剤などを飲みすぎると副作用で転びやすくなります。
 それと、住環境です。段差、照明不足、滑りやすい風呂や階段に手すりがないとか家の中が片付いていないとか。座布団や電機コードといったものでつまずいてしまうのです。一つ一つチェックして危険因子を減らすことが大切です。


桐山
 年を取るということは避けられないことです。視力、聴力はどうしても落ちます。本当は、それなりに家の環境を変えていかなくてはいけません。要するにバリアフリーの家ですね。そこまで行かなくても、お年寄りが過ごしやすい家に整備する必要があります。

勝野さん(司会)
 患者さんのほうを向いた医療、地域に密着した医療というものを、最近導入された「事実に基づいた医療」(Evidence based medicne=EBM)のお話も交えながら話してください。


桐山
 EBMに基づいた骨粗鬆症の薬剤が一昨年ぐらいから導入されました。アメリカでは7、8年前から導入されているのですが、日本では承認が遅れました。実際には骨が、加齢現象で徐々に減る、黙っていても減るのですが、逆に増やす薬剤がやっと日本にも導入されたことは大変喜ばしいことです。
 ビスフォスフォネートという系統の薬でアレンドロネート、リセドロネート、エチドロネートという3種が保険適用されています。これを飲むと、1年に2〜5%ぐらい増えます。増えるといっても100分の2〜5ですから微々たるものです。でも、黙っていれば100分の2とか3減っていくわけですから骨の量が増加するのは画期的です。この薬を使ってみたら、背骨がガシャンと折れて腰が曲がるとか、脚の付け根が折れて寝込むとかいうことが、両方とも半分に減らすことができることが分かった。これがEBMですね。それで、骨粗鬆症と診断されれば積極的に使うということになりました。

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